2020 OGAWA, Takahiro

論 文 内 容 の 要 旨

氏 名 ( 小川 高宏 )

論文題名

みそのメタボリックプロファイリングによる呈味との相関性解析と評価向上に資する成分探索

論文内容の要旨

第一章 緒論

みそは,日本の伝統的かつ多様な醸造調味料であるが,昨今,市場縮小と寡占化を伴う企業数の減少が進むに伴い,様々なみその味や品質を理解している熟練技術者の数が減少していることが課題となりつつある.この課題の一部に関しては,科学的な側面からその解決策を支援することが可能であると考えている.例えば,みその様々な味や評価を機器分析データによって得るための技術開発である.みその呈味や評価は,多数の成分の複合的な結果となって生じるため,これらの成分の一斉解析を行うことで,予測することが可能となるはずである.そこで,本研究では,メタボリックプロファイリングの技術を用いて,みその呈味や品質評価の予測モデルの構築,また評価に重要な役割を果たす化合物の探索・検証を行った.

第二章 みその低分子親水性成分のプロファイリングと呈味との相関性解析

日本に存在する多様なみそを用いて,呈味に重要な役割を果たすと考えられる低分子親水性成分を中心にメタボリックプロファイリングで得られたデータを説明変数,官能評価の手法である定量的記述分析法(QDA)で得られたみその呈味のデータを目的変数として,呈味の予測モデルの構築を行った.その結果,呈味に関する良好な予測モデルの構築に成功した.また,予測モデルの構築で呈味に相関する重要な成分の探索を行い,作り上げられた呈味の予測モデルの妥当性について検討を行った.これにより,将来的に,官能評価の補助手段としての分析データの活用を始めとし,様々なみその官能評価の値を,機器分析から得られるデータで代替できる可能性が示唆された.

第三章 みそのアシルグリセロール類の成分プロファイリングと呈味との相関性解析

本研究では,まずSFC/QqQMSという1つのプラットフォームを用いて,加水分解したアシルグリセロールを用いてアシルグリセロールの構成脂肪酸を決定し,必要となるMRMトランジッションを組みあげ,包括的なアシルグリセロールのプロファイリングを実施するための分析系を構築した.ついで,様々なみその遊離脂肪酸とアシルグリセロールのデータと,QDAのデータを用いて,呈味に関する予測モデルの構築を行い、みその呈味に相関する遊離脂肪酸とアシルグリセロール類の重要度を算出した.

第四章 みその評価向上に資する成分探索と添加実験による検証

全国味噌鑑評会に出品されたみそを用いて,みその評価結果を予測するモデル構築を行い,ついでみその評価向上に資する成分の探索を行った.同一の基準で評価されるみその区分毎に,主に低分子親水性成分を対象にメタボリックプロファイリングで得られたデータを説明変数,評価結果のデータを目的変数とし,多変量解析を行い,みその評価の予測モデルの構築に成功した.同時に,みその評価向上に資する成分の探索を行い,評価向上に資する候補成分に対して,添加実験を行い,その実証を行った.結果として,特定区分の米みその低位のみそに対し,glycerolの添加が直接評価向上に資することが明らかとなり,加えて評価の高いみそに含まれるglycerol濃度の基準値が示唆された.

第五章 総括

日本の伝統的な醸造調味料であるみそは,非常に多種多様である.その多様性の要因は,使用する原料,原料の処理方法,主たる麹,原料の配合割合,蔵付きの微生物,熟成期間,熟成温度など,枚挙に暇がない.本研究では,このようなみそに対して,多成分の一斉解析を行うことのできるメタボロミクスという技術と多変量解析を組み合わせ,人間が知覚するみその呈味や評価良否の判別を試みた.その結果,メタボロミクスの技術は,複雑かつ多様なみその呈味や評価の解明に有効な手段であることが確認された.